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バルカン諸国で芽吹いた紛争の「種」

【ベオグラードIPS=ベスナ・ペリッチ・ジモニッチ】

 

この夏温暖な天候に恵まれたバルカン半島では、豊富に収穫された多くの食べ物が食卓に並んだ。ただし人々は、「トマトの味が悪くなった」「メロンが水っぽい」「キャベツが硬くて切れない」「玉ねぎを切っても涙が出ない」等、口々に不満を漏らしている。

 

こうした不満の声は、セルビアの人気討論番組や交流サイトでも溢れており、セルビアの農民は、種子輸入業者の圧力に屈して、これまで人々に親しまれていた地場の作物を育てることを放棄していると非難されている。

 

「今日、セルビアで購入したトマトが地元産のものかどうか、見極めるのは困難です。恐らく大半は、中心部分が白くて食べられない遺伝子組み換え品種でしょう。その白い部分はトマトを固くするために組み込まれた遺伝子に起因するものです。この種のトマトは、外見は赤くなりますが、実は決して熟れることはないのです。」と語るのは、セルビア中部のスメデレヴスカ・パランカ(首都ベオグラード南東64キロの街)にある「農業研究所」のジャスミナ・ズドラフコビッチ氏である。

 

ズドラフコビッチ氏やベオグラード大学農学部の専門家らによると、セルビアの地場の品種・固有種は、海外の大手種子メーカーの進出によってほぼ駆逐され、今や家庭菜園かごく小規模の畑で栽培されるだけになってしまったという。

 

セルビアでは、コソボ紛争時に課せられた国際制裁が2000年に解除されて以来、バイオ化学メーカー大手のモンサントデュポンシンジェンタなどが開発したハイブリッド種子が堰を切ったかのように大挙して流入し、瞬く間に国内市場を席巻した。

 

商工会議所の最新統計によると、セルビアは、今年の最初の3カ月だけでも、81万ドル(8,068万円)分に相当する種子と繁殖材料230トンを輸入している。

 

「このような状況下では、地場の固有種を商業ベースで生産できる望みは全くありません。」とベオグラード農学部のジョルジェ・グラモクリジャ氏は、IPSの取材に対して語った。

 

一方、セルビア政府は、地元作物の遺伝子を保存する試みを始めている。政府が植物遺伝子資源(PGR)の保存と持続可能な利用のために立ち上げた国家計画は、現在最終段階にあり、主要提言の中で「国家遺伝子バンク」の拡充を訴えている。

 

この遺伝子バンクの代表に就任予定のミレナ・サビッチ氏は、「セルビアの植物遺伝資源は現在国内各地の農業研究所、大学施設に散在した状態にあります。」と語った。

 

国家遺伝バンクにはこれまでのところ、セルビア固有の273種5000サンプルが、特別に建設された保存室(種子は零下20度、植物は摂氏4度で管理)において、中期(20年)と長期(50年)に区分され保存されている。サビッチ氏は、「これらのサンプルは、現在世界的に進められている固有種の保存政策に沿って、今後構築されていく我が国の植物遺伝資源の基礎となるものです。」と語った。

 

セルビア政府は、これらの固有種を元に、多収性の作物との交配実験をとおしてより収穫量が期待できる高品質の種を開発したいと考えている。セルビアはまた、地域的な植物遺伝資源の保存イニシアチブである「南東欧開発ネットワーク」に加盟している。

 

セルビアの西に位置しているクロアチアでも、今年7月1日の欧州連合加盟を前に、海外からの輸入種子が同国市場を支配している現状に対する民衆の怒りが最高潮に達していた。

 

この抗議行動は夏を通じて続けられ、NGO18団体が連名で、クロアチア政府当局に対して、クロアチア食品産業の根幹を成す植物遺伝資源を脅かしている多国籍企業の野望を食い止めるよう要請した。

 

クロアチアにはすでに種子を製造する施設が皆無なため、100%輸入種子に依存している。クロアチア農学会によると、同国では、種子や繁殖材料の輸入に年間6000万ドル(約5億9700万円)を費やしている。

 

当時とりわけ懸念されたのが、欧州連合が審議していた、「種子と繁殖材料に関する新規則案」であった。それは、消費者と食の安全確保の名のもとに、全ての果物・野菜・樹木について、繁殖・販売する前に新たに登録義務を課すという内容であった。

 

しかしこのEU改定案は、クロアチアの18団体を含む欧州各地のNGOの強い反発に直面して最終的に修正が行われた。この結果、今日では、家庭菜園家でも未登録の種子を貯蔵・交換したり、従業員10人以下の零細農家が未登録の野菜の種を栽培したりできるようになった。

 

「種は今日と明日の豊かさを象徴した存在です。健康な地場の固有種を自力で栽培できれば、危機に直面した際に、多くの人々が救われることを意味します。都市部の住民が、小さな土地区画を借りて自家菜園に熱中したり、スペースが許せばアパートのバルコニーや庭で何かを栽培しようとするのも頷けます。」と、クロアチア人ジャーナリストで環境活動家のデニス・ローマック氏は語った。

 

近年の欧州経済危機はバルカン地域を直撃し、人口722万人のセルビアでは失業率が27%、人口426万人のクロアチアでは18.5%に上った。

 

こうした危機的状況に際して、セルビアの農家や家庭園芸家らは、最も原始的だが安全な手法、つまり、シーズンの終わりに種子を自家採取して、次のシーズンに種を蒔く手法を採用した。ミレンティエ・サボビッチさんは、IPSの取材に対して、「私は毎年種子を自家採取して庭の畑で使用しています。」と語った。サボヴィッチさんは、ベオグラード近郊に所有する数ヘクタールの土地で、様々な野菜を栽培し、収穫した野菜を市内で人気のカレニッチグリーンマーケット(場所代を払って野菜などを直売する市場)で販売している。

 

彼の露店では、年配者の間で若い頃よく食べた懐かしい食材として人気が高い、「牛の心臓」トマトや、「ケーキ」と呼ばれる平たい玉ねぎ、さらに小さな真珠豆や、「セロヴァカ」ドライメロンなどが売られている。

 

「在来種に関して言えば、明らかにここの気候、土壌、および農作物の保護方法に最も適した品種であることは疑いありません。ですから、地元に適したこうした在来種をどうして(海外から輸入した別の品種に)変える必要があるでしょうか?」とサボヴィッチ氏は語った。

 

しかしベオグラード農学部のグラモクリジャ氏は、この点について次のように警告した。「伝統的な或いは古くからある土着の品種を栽培することと、健康的な食材を育てることを重視する現代のトレンドを混同してはなりません。地域の土地によく適応した在来種を栽培するには、大手企業から購入するハイブリッド品種を比べて、より手間暇と適切な保護が必要となります。それを怠れば果物に殺虫剤の代わりに毒性のあるバクテリアが混入する可能性があるのです。つまり、在来種を保存する試みは、いわゆる『自然に帰る』といったような単純なものではなく、あえて例えれば、大型自動車の排気ガスに満たされた都会の繁華街を、自転車で走るようなリスクが伴うことを理解しなければなりません。」(原文へ

 

翻訳=IPS Japan

 

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