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│パレスチナ│映画│ある街の「非武装の勇気」

【ワシントンIPS=エレン・マッシー】

 

アイド・モラール氏は、一見ただの物静かな小柄な男に過ぎない。しかし、このまったく無名な男が、パレスチナの非暴力抵抗運動の顔になったのである。

モラール氏は、最近封切られた映画「バドラス」の主人公である。この映画は、イスラエルの設置する「セキュリティ」壁に対抗して、平和裏に抵抗運動を進めるヨルダン川西岸(ウエストバンク)バドラス村の人々を描いている。

ワシントンDCとエルサレムを拠点とするジャストビジョン(Just Vision)が制作した本作品には、次のようなシーンが力強く映し出されている:数十本のパレスチナ国旗をはためかせながら麓のイスラエル軍とブルドーザーに対峙するために岩だらけの丘を歩いて下ってくる村人達の姿、ブルドーザーで無残に掘り起こされ曲がりくねった根をさらけだして赤土に横たわる(おそらく太古からそこに育ってきたであろう)オリーブの木々、そして抗議者の様々な表情まだあどけない子供達の顔、あたかもこの地の生活と苦悩を顔に刻みこんだような、よく日焼けした皺だらけの老人の顔、しかしこの地に生きることに誇りを持ち、決してこの地を追い立てる迫害には屈しない固い決意と信念に満ちた表情

 
しかしこの映画のもつ強力なメッセージ性は、欧米のメディアに浸透しているパレスチナ人抵抗運動のイメージとは対照的な点にある。欧米のメディアでは、緑のバンダナとマスクをしたハマス戦士の姿から、イスラエル軍の戦車に投石する子供たちの姿まで、パレスチナ人による「暴力的な抵抗」のイメージが大勢を占めており、本作品「バドラス」のプロデューサーであるロニット・アブニ氏が言う(パレスチナ人による)「非武装の勇気」という側面がヘッドラインを飾ることはない。

先週ワシントンDC地域で催された上映会の一つに出席した地元選出のブライアン・ベアード民主党下院議員は、2009年にオバマ大統領が「パレスチナ人は暴力を放棄しなければならない」と発言したカイロ演説を含むパレスチナ人に対する非暴力の訴えについて言及し、「マハトマ・ガンジーやマーチン・ルーサーキング牧師のような指導者が必要だ」と観衆に語りかけた。そしてモラール氏の方に向き直って「皆さんの目の前に、まさにそのような指導者がいます。」と語った。

ベアード下院議員とミネソタ州選出のキース・エリソン民主党下院議員の両氏が出席した上映会は、米国連邦議会からほんの数百ヤード離れた場所で開催された。両議員は上映後に開催した討論会にもモラール氏、プロデューサーのロニット・アブニ氏、ジュリア・バッカ氏と並んで参画した。

エリソン議員は、下院議会のある議事堂のフロアで有志と共にこの映画のチラシを配っていることを打ち明けた。エリソン議員は、「(議員達から)どれほどの関心を獲得したかは未知数ですが、チラシ配布をやめるつもりはありません。」と語った。

ベアード、エリソン両議員はイスラエル・パレスチナ紛争に対する米国の政策に関して熱心に取組んでおり、下院議会において、しばしば米政界の大多数の意見に反する立場をとってきた。また両議員はゴールドストン報告書を非難する米下院決議に反対した数少ない議員であり、2008年末から翌年初めに実施されたイスラエル軍によるガザ侵攻後にガザ地区を訪問した最初の米国議員団のメンバーでもある。

このように米国の議員が参画して映画「バドラス」の存在について語ることこそ、映画のメッセージを一般の人々に伝えていこうとする制作者達の悲願である。なぜなら映画「バドラス」は、ベルリン国際フェスティバルや先週ワシントンDCで開催されたばかりのシルバードックスフェスティバル等、世界中の映画祭で成功を収めているにもかかわらず、(政治環境が明らかにイスラエル政府支持の)米国では大手の映画の配給元を見つけるのが極めて困難だからだ。

この点についてプロデューサーのアブニ氏は、「映画のテーマが(米国では)あまりにも政治的に厄介なものなのです。私たちは様々な障害にぶつかることになるでしょう。」と打ち明けた。

映画「バドラス」の米国プレミアショーは、60年に及ぶパレスチナ紛争への注目が高まる中で開催されることとなった。ヨルダン川西岸地区(ウエストバンク)におけるユダヤ人入植地政策を巡っては、オバマ政権とメンヤミン・ネタニヤフ首相の間で不協和音がおこっており、さらに先月にはイスラエル軍が公海上で(ガザ地区への救援物資を輸送中の)船上の平和活動家を急襲し殺害するマビ・マルマラ号事件が勃発するなど、占領下にあるパレスチナ領域を巡る国際世論の圧力は変化しつつある。

映画「バドラス」が誕生し、制作者やベアーズ、エリソン両議員のような政策責任者がそのメッセージを多くの人々が聞くべきだと熱心に訴え続けている今日の動きこそがそうした新たに生じつつある変化の一例といえよう。

エルサレム旧市街近くのシェイク・ジャラ村におけるユダヤ人入植地拡大計画に対する抗議運動から、ウエストバンクのビリン村、ニリン村におけるイスラエル当局によるセキュリティ壁建設に対する抵抗運動、そして、今回のイスラエル軍による襲撃事件に先立ってガザへ物資を運んだ5隻の支援船など、非暴力の抗議運動は、パレスチナ占領地域におけるイスラエルの諸政策に対して、事件でもなければほとんど注意を払わない国際世論の無関心にもかかわらず、粘り強い抵抗を継続している。

このような非暴力的な抗議行動は、時として成功を導いている。バドラス村では、イスラエルがセキュリティ壁の設置位置をグリーンラインに近づけ、村の土地の95%を守ることができた。

一方シェイク・ジャラ村では、昨年11月以来の毎週の抗議活動にも関わらず、ユダヤ人入植者の住宅建設が今週になって開始された。しかし映画「バドラス」に描かれているように、村の抗議行動は、多様な宗教、人種、国籍に属する人々が行動をもとにすることに成功している。

映画制作者は、イスラエル当局と対峙した活動家によって現場で撮影された不安定ながら臨場感がある映像と、非武装の抗議参加者への対応に戸惑うイスラエル国境警備隊を含む全ての当事者へのインタビュー、そして各種メディア報道の内容を巧みにつなぎ合わせることで、バドラス村の出来ごとのみならず、パレスチナ占領問題全体をとりまく多面的な側面を観客が理解できるように工夫を凝らしている。

6月中旬に米国映画協会で催された上映会に出席したアイド・モラール氏は、観客に対してシンプルながら率直な英語表現で「今私達が目にしたのは異なる種類のイスラエル人です。」と語った。彼が言及したのは映画の中に登場したバドラス村でパレスチナ人の村人たちと行動を共にするイスラエル人活動家達のことである。

「米国からもバドラス村をはじめセキュリティ壁の建設ルートにある村々に活動家達が合流して行動を共にしています。こうした私たちの非暴力の抗議活動を支えてくださっている米国の人々を誇りに思っています。」とモラール氏は続けた。

抗議活動の現場から数千マイル離れたところで群衆を前に穏やかな物腰ながら明確なメッセージを伝えつづけるモラール氏や映画制作に携わった人々の存在こそが、この映画「バドラス」が持つ最も強力な側面かもしれない。この映画が描いた内容は、バドラスというパレスチナの一つの村、そしてそこで非暴力運動に身をささげる一人の人間に焦点をあてたものにすぎないかもしれないが、この作品は世界が往々にして見過ごしがちな、こうした無名の村人たちの顔や声を生き生きと伝えている。

映画「バドラス」は、来週パレスチナ自治政府の所在地ラマラとエルサレムで公開される予定である。(原文へ)



翻訳=IPS Japan





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