www.facebook.com
www.twitter.com
www.linkedin.com
www.blogger.com
www.myspace.com
RSS Feeds
 
INPS JAPAN   IDN-InDepthNews - UN INSIDER

|インド|声なき人々に声を与えた「貧者のグーグル」

Tribal women from Chattisgarh in India record a message. Credit: Purushottam Thakur/IPS.【ライプール(インド)IPS=ケヤ・アチャルヤ】

インド中部チャッティースガル州の森林深くに住むゴンド族(インドで「アーディバシー」と呼ばれる先住民族の中でデカン高原中部から北部に居住:IPSJ)は、政府だけではなく主流メディアからも忘れ去られた存在だ。彼らはインド社会の最貧困層を成し、さまざまな社会指標において最低レベルにある。政治的発言権はほとんどなく、部族内の非識字率も極めて高い。

またインド憲法には、アーディバシーのために積極的差別是正措置を取ることが定められているにもかかわらず、インド政府は部族語で授業をする教育施設を認めていない。そのため、アーディバシーの意見や問題が、主流のメディアに反映される例は限られており、部族民コミュニティと非部族民コミュニティとの間の対話が成立しなくなっている。

こうしたなか、近年インドで急速に普及してきている携帯電話に着目した、電話回線を使用したニュース投稿・配信プラットフォーム「CGNETスワラ」が、アーディバシーの間で大きな話題を呼んでいる。

このサービスを利用している部族民のナレシュ・ブンカール氏(38)に、どんなものなのか尋ねたところ、携帯に残すボイスメッセージが、無料でインターネットを通じて幅広く人々に伝達される点を指摘して「(話したことが)コンピューターにタイプされるんだよ(Computer mein chhappa jata hai)」とヒンディー語で誇らしげに語ってくれた。

Shubhranshu Choudhary/ ICFJ「インドでは、社会・言語的な区分に応じて州の境界線が引かれていますが、アーディバシーは忘れられた存在です。」と元英国放送協会(BBC)のジャーナリストで「CGNETスワラ」の創設者であるシュブランシュ・チョーダリー氏は、IPSの取材に対して語った。

アーディバシー出身のチョウダリー氏は、「ゴンド族には彼らが話す部族語の新聞がありません。しかし、私が最近故郷に帰ってきて新たに気づいたのは、多くの人が携帯電話なら持っているということでした。」と語った。

そこでチョウダリー氏は2010年、携帯電話を利用した「CGNETスワラ(=「インターネットを通じたチャッティースガルの声」の意)」という部族民誰もが参加できる仕組みを開発し、インド共産党毛沢東派(マオイスト)が跋扈するこの地域で運用を開始した。マオイスト(ナクサライトとしても知られる)はこの30年間、アーディバシーが暮らす森林地帯を本拠として彼らの困窮と不満を吸収しながら反政府武装闘争を展開してきており、部族住民がしばしばマオイストと州政府治安組織(州政府が支援した民兵や警察大隊)間の銃撃戦に巻き込まれて犠牲となっている。

チャッティースガル州出身のチョウダリー氏は、この地域の政治情勢が今日のように不安定になった原因は、「政府が長年に亘ってアーディバシーのニーズを無視してきたため。」と指摘したうえで、「『CGNETスワラ』は、主流メディアから無視されてきた部族民ら自身が、自分たちに関わる地場のニュースを提供する一種の『市民ジャーナリズム』の性格を帯びていいます。従ってこの仕組みは、『貧者のグーグル』になる可能性があります。」と語った。

GCnet Swara System具体的な仕組みはこうだ。まず、情報を発信したい人は、まず「91-80-500-68000」に電話をかける。すると回線はインドのIT先進地であるバンガロールに設置されたサーバーに無料でつながる。発信者はいったん電話を切って待つ。するとまもなく電話がかかってきて、「ピー音」の後に2分以内のメッセージを残すように指示される。

そして録音されたメッセージは、すべてチョウダリー氏を通じてインド各地に点在する約50人のボランティア編集者の元に送られ、情報の正確性についてクロスチェックがかけられる。そしてこうしたプロのジャーナリストの編集が加えられたテキストが「CGNETスワラ」のウェブサイトにニュースとして掲載されると同時に、(読み書きできない部族民のための)音声ポータルにもアップされ、携帯ユーザーがいつでも音声ニュースと無料で入手できる仕組みとなっている。

このシステムのお蔭で、今やアーディバシー一人一人が、携帯電話さえあれば自分たちの関心事や苦情をいつでも発信し、それらをニュースとして共有できるようになった。その結果、これまで政府や主流メディアに無視され続けてきたアーディバシーの声が、部族社会を超えて伝えられるようになり、時にはインド内外の指揮者や人権擁護団体等の関心を引き付けた結果、問題点の解決に向けて行政を動かす事例もでてきている。

ブンカール氏は、ある森林管理官が森林権利法(2006年)に基づく土地譲渡証書を発行するとして、部族民33家族から99,000ルピー(約1000ドル)の賄賂を受け取っていた事実を地元で初めて告発した人物だが、彼がその際使用した伝達手段が「CGNETスワラ」だった。ブンカール氏のメッセージは、まず地元を拠点にする編集ボランティアが事実関係をチェックしたうえで森林保護局に転送された。そして森林保護局が調査の結果告発内容を事実と認め、当該職員の停職を決定したのである。2か月後にブンカール氏は、この監視員が賄賂を返却し謝罪したとのニュースを『CGNETスワラ』送り出すことになった。

CGNETスワラ」の影響力を示す事例をもう一つ紹介しよう。ある教師が、部族民の子どもたちの学費や、政府補助金で購入された教室の家具や穀物などを着服していたが、それを知った住民が「CGNETスワラ」にメッセージを残したのをきっかけに、当局が調査に乗り出し、その教師は停職処分になった。

こうした成功事例が話題を呼び、『CGNETスワラ』は今やチャッティースガル州全域をカバーし、さらに近隣のマディヤ・プラデシュ州ジャールカンド州でも人気を博するようになっている。さらにチョウダリー氏が「メディアの暗帯(ダークゾーン)」と呼ぶ、グジャラート州ラージャスタン州オリッサ州ジャールカンド州アンドラプラデシュ州においても、これらの州境を跨って暮らすアーディバシーの間に口コミで広がりをみせている。現在、『CGNETスワラ』のサーバーに電話してメッセージを残したりニュースを聞いたりしているユーザーは、1日当たり400人程度である。

ところで、「CGNETスワラ」のサーバーを構築した人物が、マサチューセッツ工科大学卒でバンガロールのマイクロソフト研究所で勤務するビル・サイス氏である。

サイス氏は、シンプルなパソコンにモデムと「アスタリスク」という無料ソフトウェア―を使って、不在中にかかってきた電話番号に自動で電話をかけ、続いて先方のメッセージを録音する特殊な回線を10本構築した。

IPSの取材に応じたサイス氏は、「私のようなパソコンおたくが言うのもなんですが、『CGNETスワラ』の秘訣はテクノロジーではありません。それは、チョウダリー氏が構築した独自のメディアネットワークシステムなのです。つまり、同胞の部族民たちが置かれている悲惨な現状をなんとか変えたいというチョウダリー氏の熱い思いが、この技術を活用して声なき住民に声を与えた『CGNETスワラ』が生まれたのです。」と語った。

一方チャッティースガル州政府は、『CGNETスワラ』が州政府の統治を補完する可能性を認めたがらないでいるようだ。

チャッティースガル州の行政長官であるスニル・クマール氏は、「個人的には、(CGnetスワラが)住民の様々な意見や改善すべき問題に関する情報を草の根レベルで入手できる効果的な仕組みだと思っており、時折活用しています。」とIPSの取材に語ったが、同時にサービスの使用はあくまでも州の行政とは関係ない非公式な性格のものだと念を押した。

また皮肉なことに、インド政府の無策で社会から残された人々のために闘うことを標榜してきたマオイストらは、こともあろうに、チョウダリー氏に『CGNETスワラ』を閉鎖するよう圧力をかけている。

現在インドの首都デリーとマディヤ・プラデシュ州の州都ボパールを往復する生活をしているチョウダリー氏は「マオイストたちは、(困窮につけこんで自分たちの戦士として徴用してきた)部族民ら一人一人に力を与える「セルフエンパワーメント」の概念を持ち込んだ『CGNETスワラ』という仕組みに脅威を感じているのです。」と語った。

さらに『CGNETスワラ』は、無料の周波数帯を利用したラジオシステムに進化を遂げようとしている。チョウドリー氏によれば、利用者は少額の聴取料を支払うことになるだろうという。現在のところは「国連民主主義基金」と「ナイトフェローシップ」の支援で運営されているが、先々は財政的に独立する予定だ。

また、各種薬草を駆使する伝統治療者が登場する「スワスティヤ・スワラ」という健康相談ネットワークの構築がまもなく完成し、サービスが開始される予定である。

「私たちはこの仕組みを通して、部族民の声なき声(スワラ)をウェブサイトや携帯電話をベースにしたボイスポータルの空間に広げているのです。この仕組みの下では、(主流メディアでは定番の)ニュースルームは必要ありませんし、(誰もが市民記者としてニュースを発信できるため)地理的な制約も全く関係ないのです。」とチョウダリー氏は語った。

未だに政府や主流メディアに無視されインドの発展から取り残されている1千万人以上にのぼるアーディバシーにとって、これは実に良い知らせといえるだろう。(原文へ

 

翻訳=IPS Japan

 

 

 

 

関連記事:

ポテンシャルを発揮する人権教育

|ボリビア|先住民をつなぐコミュニティーラジオ

すべてが不明瞭な原子力計画