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|カンボジア|衣料産業を破壊する低賃金

Police raiding Canadia Industrial Park in Phnom Penh on Jan. 3, 2014. Credit: Courtesy LICADHO【国連IPS=ミン・リ】

このところカンボジアの衣料産業は頻繁なストライキや抗議活動に見舞われている。しかし首都プノンペン郊外のカナディア工業団地で1月3日に発生した数千人規模の抗議集会では、治安部隊が集会参加者に発砲して5人が死亡、十数人の負傷者が出るなど、それまでの抗議活動からは突然様相が変わってきた。

依然として収束の兆しが見えない中、権利擁護団体は、カンボジアに進出している衣料ブランド各社に対して、現地縫製工場からの製品買い上げ慣行を見直すとともに、流血の惨事を招いた縫製工場労働者のストの原因である低賃金問題の解決に向けた行動を起こすよう強く求めている。

The majority of Cambodia’s exports to the European Union (EU), over 89 percent, are textiles such as garments and shoes. Credit: Michelle Tolson/IPS「ストライキの背景には縫製工場の労働者らの激しい憤りがあります。発火点は至る所にあるのです。彼らは低い賃金水準で困窮を強いられる現状をこれ以上受け入れたくないのです。」と、ニューデリーに本拠を置く労働団体「アジア最低賃金連合(Asia Floor Wage Alliance:AFWA)」のアナンヤ・バッタチャヤ氏はIPSの取材に対して語った。

政府が設定する法定最低賃金は労働者の要求からはかけ離れていることが少なくない。カンボジアの場合、縫製工場の最低賃金は現行月80ドルで、100ドル前後のベトナムなど周辺国と比べて低い。政府はこの最低賃金を段階的に引き上げる方針(今年4月に100ドル、5年後に160ドル)を提示したが、労働者側は即時160ドル(約1万6700円)への引き上げを主張し、昨年末から大規模なストに入っている。

アジアの衣料産業における最低賃金の底上げを求めているAFWAは、法定最低賃金が(労働者の生活を保障できないほど)不十分な場合、当該国で事業を展開している多国籍企業である衣料ブランドが、問題の解決に向けて関与すべきだと考えている。

「縫製工場の労働者らが製造している製品が世界の衣料産業を支えているのですから、衣料品工場を世界的に展開する多国籍企業が、最低賃金と生活賃金の差額を支払うべきです。」「これは不公平な要求ではありませんが、衣料ブランド各社は依然として差額の支払いに同意していません。」とバッタチャヤ氏は語った。

公正を期するために言えば、カンボジア治安部隊による弾圧が行われた後、現地に工場を展開する大手衣料ブランドが沈黙を守っていたわけではない。既に「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」「ギャップ」「リーバイ・ストラウス」などの企業が、最近の暴力沙汰について遺憾の意を表明する公開書簡をカンボジア政府に送り、政労使が定期的な賃金見直しを行うメカニズムを創設することを主張している。

「リーバイ・ストラウス」社はIPSに寄せた声明の中で、「当社は今後もカンボジアでの現地生産を継続していく方針」であり、現在の政情不安が平和的に解決されるよう強く要望する、としている。また「ギャップ」社の広報官は、同社はいかなる暴力にも強く反対するものであり、全ての利害関係者が論争の平和的な解決にむけて話し合うよう呼びかけている、としている。

ワシントンに本拠を置く労働団体「国際労働権利フォーラム」は、こうした大手衣料ブランドの動きについて、「各社がカンボジアで起こった人権侵害に対して積極的に声を上げたのは称賛すべきだが、より一層踏み込んだ行動を起こさなければならない。」との声明を出した。

Ms. Liana Foxvog同フォーラムのリアナ・フォックスボグ広報部長は、「全ての衣料ブランドと小売業者は、カンボジアで縫製された製品に対して自発的に買い取り額を引き上げることに同意し、その分を現地労働者の賃金引き上げに反映するよう縫製工場に要求すべきた。」と語った。

フォックスボグ氏によると、こうした大手衣料ブランドは過去20年に亘って、生産拠点となる途上国において労働者に最低賃金レベルを競わせながら、世界各地にサプライチェーンの拡大を図ってきたという。

「私たちは、これまでに縫製工場の労働者が置かれてきた過酷な労働環境をはじめ、低賃金、労働者の集会の自由に対する弾圧など様々な問題事例を目の当たりにしてきました。」「これまでは衣料ブランドや小売業者が各地の縫製工場を廻り、製造価格を買いたたきながら買付を行ってきました。例えばシャツを2ドルで製作できるか問い、ある工場が難色を示せば、その金額でも仕事を引き受ける別の工場を探して発注を乗り換えてきました。その結果、2014年の今も、こうした労働搾取的な経済が罷り通っているのです。今後は、こうした旧態依然としたビジネスモデルとは異なるシステムが構築されなければなりません。」とフォックスボグ氏は語った。

フォックスボグ氏は、この問題を解決するためには、すべての衣料ブランドと小売業者が供給業者と長期的な関係を結び、労働条件をコントロールしやすくすべきだと訴えている。

「私たちは、縫製労働者が飢餓と集団失神に直面しなくてもすむように、公正な生活賃金を保障する必要があります。そしてそのために必要な追加費用を衣料ブランド各社が払えることを私たちは知っているのです。」とフォックスボグ氏は語った。

見通しは不透明なまま

治安部隊の発砲による縫製労働者殺害事件から1か月以上が経過したが、依然として危機的状況が打開される見通しはない。

Human Wrights Watch人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は2月3日、緊急声明を発表し、その中でカンボジア政府に対して、縫製工場側が、組合を組織したり権利を主張する労働者に対して威嚇したり脅迫したりしないよう保証するよう求めている。

国際労働機関(ILO)は1月下旬、カンボジアで続く暴力について「深く憂慮している」と指摘したうえで、改めてカンボジア政府に対して、スト参加者に対する弾圧事件について独立した調査委員会を設置するよう呼びかけた。

カンボジアでは1990年代後半から外資系の輸出向け縫製工場が多数つくられ、衣料産業は今では約50万人を雇用する製造業の主要部門となっている。ILOによると、カンボジアからの衣料の輸出高は、2013年に史上初めて50億ドルを突破した(前年同期比22%増の51億ドル弱)。

衣料産業はまた、縫製工場の労働者の大半を占める女性の貴重な収入源であるとともに彼女たちが家族へ送る仕送りの資金源として重要な位置を占めている。

Jill Tucker/Better Factories Cambodiaプノンペンを拠点にした国内の衣料産業をモニタリングするILOプロジェクト「ベター・ファクトリー・カンボジア」の責任者ジル・タッカー氏によれば、全ての縫製工場が労働搾取工場とは言えないまでも、2010年以来、カンボジア衣料産業の労働条件は悪化しつづけているという。

タッカー氏はIPSの取材に対して、「途上国は国際市場における競争力を得るために裁縫労働者の賃金を長期に亘り『人工的に低く』抑えてきており、その結果、労働者の生活水準が国内物価の上昇に追いつけなくなってきているのです。また縫製工場が大都市に集中していない他の衣料生産国と異なり、カンボジアの場合、衣料の生産拠点が首都プノンペンに一極集中しています。このため、労働者は縫製工場の近くに住むために高い生活費の出費を余儀なくされているのです。」と指摘したうえで、「もしカンボジア人労働者が仕事に満足し賃金や労働条件が十分だと感じていれば、おそらくこれほどの労働争議を目の当たりにすることはなかったでしょう。」と語った。

さらにタッカー氏は、「消費者が使い捨ての安価な衣服を大量に所有する現在のシステムは、経済的にも環境的にも持続可能なものではありません。おそらくこのような安価な衣服を大量生産する体制は今後10年もすれば限界をきたすでしょう。」と語った。

消費者の罪

Benjamin Powell/ TTUテキサス工科大学自由市場研究所のベンジャミン・パウエル教授は、IPSの取材に対して、消費者は途上国製の安価な製品を購入した際に、罪悪感を覚える必要はないと語った。

「労働搾取工場(スウェットショップ)」という言葉には、それが時には現地の労働者にとって、この後の経済発展や、最終的には賃金引上げと労働環境の改善につながる可能性がある最善の選択肢であるにも関わらず、否定的な響きがあるのです。」とパウエル教授は主張した。

カンボジアは国内貧困率を2007年の50%から今日の20%にまで削減することに成功したが、世界銀行の統計では、依然として「低所得経済」に分類されている。同統計によると、人口710万人のカンボジアの一人あたりの国民所得は880ドルで、香港の36,560ドルには遥かに及ばない。

前出のADWAのバッタチャヤ氏は、「バングラデシュやカンボジアのような途上国は次の経済レベルに向けてまもなく前進を遂げるでしょう。しかし、そのためには低賃金の問題が解決されなくてはなりません。」と指摘したうえで、「衣料産業は、賃金面で競争するのではなく、物流や原料調達の面において競争すべきです。」と語った。

更に、昨年7月の総選挙で不正が行われたとして選挙のやり直しとフン・セン首相の退陣を求めている野党救国党をはじめ様々な勢力が抗議運動に参画してきていることから、縫製工場労働者の賃上げ要求デモは徐々に政治的な色彩を帯びたものとなってきている。ちなみに、救国党は先の総選挙で縫製工場労働者の最低賃金を150ドルに引き上げることを公約して、与党カンボジア人民党が大きく議席を減らす(90議席→68議席)中で、大きく議席を伸ばした(29議席→55席)。

しかしバッタチャヤ氏は、「抗議の声を上げている縫製工場労働者の本当の動機については、疑念を持ったことがありません。」と指摘したうえで、「ストに参加した労働者たちの要求には、民主的な社会の実現や基本的人権の保障といった政治的なものも含まれているかもしれません。しかし、抗議の声の根底にあるものは『明らかに経済的な要求』に他なりません。つまり、労働者達は賃金の引き上げを求めているのであり、抗議行動の発端はこの点にあるのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

 

 

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