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INPS JAPAN   IDN-InDepthNews - UN INSIDER

|日本|課題だらけの野田新政権(ラジャラム・パンダ防衛問題分析研究所上級研究員)

 

【ニューデリーIDN=ラジャラム・パンダ】

 

日本の新首相・野田佳彦氏の前には、津波災害からの国の復興、それによって引き起こされた原発危機、巨大な国の債務の抑制など様々な課題が待ち受けている。外交面では、米国、中国、オーストラリア、インドとの関係でバランスを保たなければならない。もしぐらつくようなことがあれば、世界における日本の重要性は相当に減ずることになる。

日本の政治的混乱は、2011年8月26日、15ヶ月間の政権担当期間を経て菅直人首相が辞任したことで終わりを告げた。各方面からの批判にさらされている与党民主党は、菅政権の財務大臣であった野田佳彦氏を日本の首相として選んだ。野田氏は、民主党が与党である衆議院と、野党勢力が支配する参議院の両方の議員の多数から支持を得た。野田氏には多くの厳しい試練が待ち受けているが、なかでも大きいのは、内輪もめにとらわれる自らの党をまとめるという任務であろう。

 
野田氏は民主党のなかの「穏健派」である。性格は穏やかであり、近年党への忠誠が厳しく問われている中にあって、公平であるとの評判を得ている。日本の基準で言えば彼は保守的であり、極端な謙虚さは政治的な利点である。彼は、この5年で6人目の、あるいはこの6年で7人目の首相である。歴史的な政権交代から2年、首相が2人も続けて泥沼の政治対立に巻き込まれ辞任を余儀なくされたことは、民主党政権下の政治が無残な失敗に終わったことを示している。

なぜ菅首相は失敗したのか

現在の政治状況の根本原因はさまざまにある。菅氏は、首相として誤った方向に政治を導いた。原発への依存を減らす将来に向けて国を導くことで、福島原発事故に対応しようとした。彼の努力は賞賛すべきかもしれないが、実現性がなかった。消費増税を含めた、税と社会保障の一体改革への支持は少なく、菅氏によるこの問題への対応は、多くの課題を残してしまった。

コンセンサスを作ることに不慣れな菅氏は、大連立を作ることに失敗した。重要な政策課題について閣僚と相談することなく意見を公にしてしまうことで、閣僚との間に溝が生まれ、信用を失った。

たとえ菅氏に広い視野があり、コンセンサスを作る能力があったとしても、菅氏が首相の座にいつづけることは難しかったであろう。なぜなら、民主党自体が、長年にわたる党内抗争でバラバラになっていたからである。

菅氏は、消費増税や党マニフェストの見直しなどの重要な政策課題を追求しようとしたが、党内からの反対に直面した。

小沢一郎元党代表
の率いる一派によって、菅氏は悩まされることになる。2011年6月、小沢グループは、野党の提出した内閣不信任案に賛成するとの脅しすらかけた。これが、菅氏辞任の背景となった。菅氏が前任者の鳩山由紀夫氏と一時的に休戦したことで、6月に考えられていたよりも多少長く政権にいることができただけであった。

2009年総選挙での政権交代は予想外のことであり、民主党はこの2年間、勝利を生かすことができなかった。朝日新聞が8月27日の社説で論じたように、これは以下のような理由のためであった。「民主党は著しく異なる政治課題と手法を追求する政治家の寄せ集めとして結成された。それは、自民党に属していない議員の広範な政治的連合であった。その主要な任務は衆議院の小選挙区において勝利を収めることであった。」つまり、民主党は「小選挙区制度の中から生まれた、選挙用の互助集団」ということである。

民主党が野党であったとき、その唯一の任務は自民党政権を倒すことであった。この政治的目標が達成された後、民主党が共通のビジョンを欠いているという事実が表面化し、無限の内輪もめサイクルに入っていった。民主党には国を統治する政治的成熟性が欠けており、日本の政治は不安定化した。民主党が自らを改革しない限り、野田政権はその前の2つの政権とあまり変わらないものになるだろう。

これからの任務

効果的なリーダーシップの不在は、日本にとって最大のハンディキャップであった。ブルース・クリングナー氏が『ロサンゼルス・タイムズ』に書いたように、「民主党政権とは、スローモーションで見る電車の脱線のようであり、『日本のリーダーシップ』とは、それ自体矛盾した表現であった」。二院制の仕組みの中で党派の間に橋を架けるリーダーがいなかったことが、日本の最大の問題だったのである。

党のマニフェストに書き込まれた政策に関して共通のスタンスを取らせ続けることが、野田首相にとって最大の課題となるだろう。マニフェストで出された、社会保障や一人当たり2万6000円の子ども手当といった、財政上の裏づけを欠いた公約は、前任者2人のイメージを悪くした。しかし、すでに宣言された政策を変えるには、たとえそれが必要だとしても、党内からの支持を得なくてはならない。

日本は、経済の停滞や社会の高齢化、中国や北朝鮮からの安全保障上の脅威の増大、低下する国際的影響力といった問題に対処しようとしているが、かつては自民党、そして現在は民主党も、日本を効果的に統治するビジョンも能力も示すことができていない。

政策よりも政局に傾注することが日本の政治文化となってしまった。「彼らはまるで、点を稼ごうとしてお互いにパンチを繰り出すが相手をノックアウトすることができないパンチドランカーのようだ。その結果、政治は行き詰まり、政策は停滞している。」

民主党は、数の力を借りた党派政治の歴史を持っている。小沢氏が民主党を率い、参議院で多数を占めていた時代、自公政権の法案成立を難しくし、日銀総裁などの政府人事にしばしば同意せずポストが空白になることもあった。小沢戦略は功を奏し、政府は衆議院解散のプレッシャーにさらされた。自民党はその後の総選挙で野に下った。

現在自民党は、小沢氏がやったのと同じような奇術を民主党に対して仕掛けている。もし民主党が政権にとどまろうとするならば、野田首相は、日本がそのような古い形の政治を乗り越え、新時代の政治に踏み出せるようにしなくてはならない。与野党双方がなさねばならないことは、「真摯で建設的な政策論議を通じて共通の土俵を見つけていくことである。」

野田首相の前には、津波災害からの国の復興、それによって引き起こされた原発危機、巨大な国の債務の抑制など様々な課題が待ち受けている。しかし、最大のリスクは、野田政権が前の2つの政権と同じく短命に終わる危険性である。民主党は、2012年9月に定期的な代表選を予定している。野田首相は、国会での行き詰まりを打ち破るために大連立を呼びかけているが、野党からは冷ややかに受け止められている。

実際のところ、大連立など必要はない。なぜなら、現会期において、政府提出の法案の80%が大連立でなくとも通過しているからである。野田政権が現在やらねばならないことは、復興のために迅速に第三次補正予算を策定することである。そして野田首相に必要なのは「野党との信頼関係」である。

指導者が回転ドアのように入れ替われば、5兆ドル経済の2倍にもいまや達した国の債務問題に対処する効果的な経済戦略は妨げられてしまう。野田首相は財政規律派と評されているが、あまりにも財務官僚の言いなりになっていると批判されてもいる。

しかし、彼は、国の借金を返済し震災復興の財源とするために税金を上げることで、政治の常識に風穴を開けることをいとわない。野田首相は、2015年までに消費税を10%に上げて、高齢化社会において増大する社会保障費の財源とし、債務危機を抑制する手段とすることを目指してきた。

しかし、最近になって彼は慎重になり、成長と財政改革の両方が必要であると言い始めた。野田氏はこれまで、借金を抑制するために痛みの伴う改革を日本がとることを一貫して主張してきたから、野田氏の変化は債券市場にとっては歓迎である。

猛烈な円高もまた、野田首相にとっての大きな課題である。日銀が通貨市場に介入し、8月4日に資産購入計画を拡大することで金融政策を緩和したが、これらの措置は、円高抑制にわずかの効果しかもたらさなかった。

財務相時代の野田氏は、市場への介入などを通じて円の行過ぎた高騰を防ぐ意思を示してきたが、今後もそのスタンスは変わらないものと思われる。円高は日本の輸出産業の業績に深刻な影響を与えている。野田氏は、強い円に対処するために日銀との協力を模索してきたが、その他の候補とは違って、追加の緩和措置を採るよう圧力をかけることを控え、日銀の独立性を尊重してきた。

エネルギー安全保障の面では、野田氏は前任者の菅氏とは考え方が違っている。野田氏は、原発に依存しない社会という菅氏のビジョンから距離をとり、原子力への信頼を取り戻さねばならないと主張してきた。停止した原子炉の安全性を確認した上で再稼働することで電力を安定的に供給することを目指している。しかし、自治体と地域住民がそれに合意するかどうかは定かでない。これまで、地震のために止まっていた再稼働プロセスを容認した自治体はひとつしかない。

震災が間接的にもたらした影響も甚大である。3つの複合災害は多くの製造業者のサプライチェーンを破壊し、日本のGDPの抑制要因となっている。電力不足も経験している。工場の稼働を週末にシフトさせ、休眠化した火力発電所を再稼働し、省エネで電力需要を減らす努力がなされたが、いずれも不十分な措置であった。野田首相には、合理的なスケジュールの中で最も安全な原子炉を再稼働するための妥協を形成するという困難な課題が待ち受けている。リストのトップに入ってくる項目は、実際上も政治上も機能するような新しいエネルギー政策を策定することである。

菅氏が再生可能エネルギーに焦点を移したことで、シャープソフトバンクといった企業があらたに大規模な太陽光発電プロジェクトを牽引することになったが、日本にとって、少なくとも中期的には、原子力が不可欠であろう。野田首相は、日本のハイテク輸出には何の悪影響もないと党内や国民を説得しつつ、福島第一原子力発電所のような原発事故を二度と起こさないようにしながら代替エネルギーにも焦点を当てねばならない。

野田首相が受け継いだのは、激しく分裂している民主党である。彼は反小沢派からの支持を得た。しかし、献金スキャンダルでの裁判に直面しているにもかかわらず、小沢氏の影響力はばかにできない。野田首相は小沢派に慎重に対処する必要があるだろう。小沢氏とその支持者が野田首相に対して公然と反旗を翻すことはすぐにはありそうもないが、彼らの大きな影響力は野田首相の方針を掘り崩すことも可能である。

野党が参議院の多数を占める状況は、次の選挙がある2013年までは続く。野党の自民党とその連携相手である公明党は、もし民主党が失政を行うようであれば、自らの政治的目的のためにためわらず法案審議を妨げることだろう。従って、不信任決議によって政局を不安定化しようという脅しは、野田政権を脅かしつづけるだろう。この事実はまた、ひとたびそのような事態が生じれば、政権を救うために民主党内のさまざまな派閥を一致させるという効果を生むかもしれない。

外交

外交面で野田首相が抱えるひとつの課題は、米国との絆を強化することである。民主党が2009年に政権の座に就く前、鳩山由紀夫氏は「等距離」政策によって米国との緊張関係にあり、同盟関係は損なわれることになった。普天間基地の移設問題も、対立の中心点であった。

野田首相は、米国との同盟関係の維持は日本外交の中心課題であると主張してきた。日本は世界第3の経済大国であり、米国にとってはアジアで最も重要な同盟国である。野田首相は、沖縄県北部に普天間基地を移設する2006年の日米合意を支持している。しかし、米国が基地維持のためにさらなる財政負担を日本に求めるようなことがあれば、野田首相は抵抗すると思われる。

日本の隣国に関して言えば、中国との関係を維持することは厳しい課題となるだろう。中国との経済的紐帯が太くなっているにも関わらず中国は2009年に日本最大の貿易相手となり、2010年の二国間貿易は3000億ドルにも達した尖閣諸島問題もあって、2010年に両国関係は冷え切ってしまった。

中国は、日本が「中国の『中心的な利益』と正当な開発要求を無視することで、また、隠された動機のために『中国脅威論』をふりまくことで」両国関係を悪化させている、と非難している。

中国は、「中国国民の日本に対する憤りを静めるため、日本の戦時の過去に関する適切な政策を慎重に策定し実施せよ」、そして、「国益を守るための軍の近代化という中国の正当な要求を認めよ」とすぐさま野田首相に対して警告した。

中国は、14人の戦犯を含む250万人の戦没者が奉られている、日本の過去の軍国主義の象徴である神道施設、靖国神社を日本の指導者が参拝することを望んでいない。

保守派を自認する野田首相は、A級戦犯は戦争犯罪人ではないとの見方を最近示して物議を醸した。さらに、8月15日には、日本の首相に靖国神社を参拝しないよう求めることには意味がない、と述べた。首相として彼が靖国参拝をするかどうかはわからないが、中国や韓国との関係をこれ以上悪化させないために、参拝を控えることになるだろう。

中国との相互に利益のある経済関係を守ることも大事だが、政治的な違いが加熱しないようにすることも重要課題である。野田首相にはまた、重要な資源産出国であるオーストラリアとの経済関係を深化させることも求められている。日豪両国は米国の同盟国であり、両国の政治的理解を深めることは、地域問題の対処にも有効であろう。

中国ファクターはアジア諸国を接近させ、インドはこの戦略の中で重要な位置を占めている。インドとの経済関係はまだ深くないが、日本との政治上、安全保障上の関係は悪くない。

包括的経済連携協定(CEPA)とデリー・ムンバイ産業回廊の署名は、今後数年の日印経済関係を大きく変えることになろう。日本の現在の対印政策は継続することになりそうである。野田首相は今年12月に訪印予定である。野田首相はまた、日本の核政策を見直すことになりそうである。なぜなら、原子力なしに日本が生きていくことは難しいからである。インドとの民生原子力協定の交渉は止まったままである。マンモハン・シン首相との首脳会談では、この問題が大きく取り上げられそうである。(原文へ

※ラジャラム・パンダ氏は、ニューデリーの防衛問題分析研究所(IDSA)の上級研究員。この分析の完全版は、9月6日に「IDSAブリーフ」として発表されたものである。

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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