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INPS JAPAN   IDN-InDepthNews - UN INSIDER

|軍縮|勢いづくドイツの平和運動

【ベルリンIDN-InDepth News=ジュリオ・ゴドイ】

 

それはまさに歴史の皮肉とでも呼ぶべきことかもしれない。そもそもドイツの平和運動は、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)が西ヨーロッパ全域に核兵器を配備する決定を下したことに対する抗議行動が発端であった。ところが30年後の今日、同平和運動は今度は米国のバラク・オバマ大統領の提案を活発に支持する行動で再び紙面を賑わせている。

ドイツの平和運動は、1979年12月のNATOによるいわゆる「二重決定」が契機となり一般大衆を巻き込む運動へと拡大した。NATOはこの月ワシントンで開催した外相・国防相特別会議において、ワルシャワ条約機構に対して、準中距離弾道弾(MRBM)及び中距離弾道弾(IBM)の軍備管理交渉を呼び掛けると同時に、合意に達しない場合、西ヨーロッパに新たに中距離核戦力を拡大配備する方針を採択した。

 
NATO
が572基の核弾頭設置(パーシングII及び巡航ミサイル)を決定して以来、西ドイツ領(当時)だけでも、ソ連、東欧全域の諸都市及び民間・軍事施設に照準を合わせた数千発の核兵器が配備された。また西ドイツは同時に、ソ連のSS-20核ミサイルの主要攻撃目標となっており、同ミサイルの発射台の一部は東ドイツ(当時)に配備されていた。


その後、特に1980年代初頭以降、多くの西ドイツ市民がNATO及び米国による国内への核兵器配備に反対して定期的に抗議行動を起こしてきた。当時のドイツ人平和活動家達にとって、いつの日か、米国の大統領と核軍縮に関する見解を共有ことになろうとは想像もできなかったことだろう。


オバマ大統領は4月5日、チェコ共和国の首都プラハで行った演説で、「核兵器のない世界」の実現に向けて世界をけん引していくことを誓った。オバマ氏は、世界中に拡散している数千発に上る核兵器を「冷戦時代の最も危険な遺産」と呼び、「世界規模の核実験禁止を実現するために、私の政権は、直ちにかつ強力に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を目指す」と述べた。


オバマ氏はまた、「50年以上の協議を経た今、核実験はいよいよ禁止される時だ。」と述べた。


今年の復活祭(イースター:4月12日)はオバマ演説に応えて多くのドイツ人が再び街頭で示威行動を起こした。聖金曜日にはドイツ金融の中心地であるフランクフルトだけでも約二万人の市民が街頭に集い核兵器の廃絶を訴えた。また、ドイツ国内の数十か所の都市において同様のデモ行進が催された。伝統的にイースターにおけるデモ行進は、一年における平和活動のクライマックスと位置付けられている。


フランクフルトでは、核戦争防止国際医師会(IPPNW)ドイツ支部の共同創設者で精神分析学者のホルスト‐エーベルハルト・リヒター氏が、「今日再び集結した平和運動は、オバマ米大統領に対する抗議のためではない。彼を支援するためのものだ。(オバマ氏によって開かれた)地球規模の核兵器による威嚇政策から人類の平和構築を目指す政策への転換は、実に大きな一歩であり、今こそ世界の市民の支援を必要としている。」と街頭行進に集まった大群衆に呼びかけた。


IPPNW
のイェンス・ペーター・ステッフェン氏はIDNの取材に応え、オバマ大統領の核軍縮への訴えは「核廃絶を目指す私たちの運動にとって大きな追い風となるだろう」と語った。


IPPNW
は1980年に核戦争の恐ろしさを憂慮した米ソの心臓学者によって設立され、今日では約60カ国に支部を持つ、核兵器全廃を唱える世界規模の医師連盟組織である。IPPNWドイツ支部は約8000名の会員を擁す同国最大の平和団体である。


NATO
による1979年のいわゆる「二重決定」は、ジミー・カーター政権下で構想が練られ80年代のロナルド・レーガン政権の下で実行に移されたものだが、その結果、西ドイツ領土は数千発に及ぶ核兵器の発射拠点と変貌を遂げてしまった。このことは同時に、(当時の東ドイツも含めると)ドイツ全土がロシア及びフランスの中距離核兵器の攻撃目標にもなっていることを意味し、まさに全てを抹殺する核戦争がドイツ領土を舞台に勃発しかねないという差し迫った現実が、一般のドイツ市民をして、核兵器の存在に対する危機感を高めることとなった。


当時のヘルムート・シュミット首相率いる社会民主党政権がNATOの2重決定に従いドイツ領内への核兵器配備を容認した際、ドイツ全土で多数の市民が死を招く核競争の論理を糾弾して街頭で抗議行動を展開した。


1981年のイースター行進では、30万人を超える市民が当時の西ドイツの首都ボンに集結し、NATOの2重決定に対して平和裏の抗議活動を行った。それから間もなく、核兵器受入の判断を巡って与党内の支持を失っていたシュミット首相は、国会で建設的不信任決議を可決され退陣に追い込まれ、代わって保守政党キリスト教民主同盟(CDU’s)のヘルムート・コール氏がドイツ連邦首相に就任した。


ドイツ社会民主党(SPD)は、その後16年を野党の地位に甘んじ、平和運動に起源をもつ政治政党である緑の党に国会における議席数を侵食される憂き目にあった。1983年にレーガン大統領がボンを訪問した際には、50万人のドイツ人が街頭にでて抗議の意思を示した。


ベルリンの壁の崩壊

ベルリンの壁の崩壊と冷戦の終焉以来、特に1990年代末から2000年代初頭にかけてドイツの平和運動はその限界を露呈しつつあるかに見えた。東西ドイツが統一しソヴィエト陣営が解体した後、核戦争の恐怖は遥か昔の出来事かのように思われたのかもしれない。その当時、イースター行進はもはや世間の注目を浴びることなく、政治への影響力も皆無に等しいものとなっていた。

しかし一方で、その時期もドイツは相変わらず数十基の核弾頭の発射拠点であり続けた‐そしてその現実は今日も変わらない。ドイツに配備されている核弾頭の実情については公開されていないが、IPPNWドイツ支部は、約20発のB61タイプ核爆弾が、ベルリンの南西500キロ、ベルギー・ルクセンブルク国境近くにあるブエッヘル軍事基地に保管されていると見積もっている。


ブエッヘル基地には最大44基の核弾頭を収容することができる。ここではNATOの核抑止政策の一環として核兵器使用計画に非核保有加盟国を組み込むいわゆる「核兵器共有政策」の枠組みに則って約1700名のドイツ兵が核兵器施設の扱い方について訓練を受けている。ドイツの他では、ベルギー、イタリア、オランダが同様に米国の核兵器を配備・保管している。

IPPNW
によると、欧州のNATO加盟国が保有する米国製核爆弾の総計は約300発とみられている。これらの核爆弾の破壊力は、1発あたり最大170キロトンである。因みに1945年8月に日本の広島市に投下され最大20万人の人命を奪ったとされる核爆弾の破壊力は12.5キロトンであった。


一方、欧州に配備されたロシア側中距離核ミサイルの総数は約7000基で、その内約5000基は既に実戦で役に立たないものとみられている。NATO・ロシア双方が配備しているこうした中距離核ミサイルについては管理が行き届いておらず、盗難の危険性があることが指摘されている。


今年のドイツのイースター平和行進は、1980年代の全盛期と比べるとはるかに小規模なものだったが、核廃絶を目指すとしたオバマ大統領の発言を追い風に、長らく低迷していた核廃絶を求める平和運動の「再生」を象徴するものとなった。この新たな潮流が及ぼしている影響は絶大なもので、つい最近まで核兵器との共存を止むなしと考えていたドイツ主流派の政治家達でさえ、核軍縮の可能性を真剣に考えるようになってきている。


SPD
(中道左派)を率いるフランク・ウォルター・シュタインマイヤー外相もそうした一人である。シュタインマイヤー外相は週刊誌「シュピーゲル」のインタビューの中で、米国政府に対して核軍縮計画の中にドイツに配備している核兵器を含めるよう強く求め、「核兵器は、軍事的に時代遅れの兵器である」と述べた。


昨年12月に米国国防総省に提出された報告書の中で、専門家委員会は「ヨーロッパ全域に配備されている核兵器は軍事的に既に役に立たないもの」と結論付けたうえで、使用可能な状態に維持するためのメンテナンスコストが莫大な予算に上っている点を指摘している。


意見が分かれるドイツ政府

ドイツにおける核軍縮問題については、それを率直に支持したシュタインマイヤー外相の発言がある一方で、ドイツ連立政権内の意見は分かれているようである。SPDと連立政権を組んでいるCDU’s(中道右派)のアンゲラ・メルケル首相は、3月のドイツ国会における議論の中で、「私の政権は、核兵器政策という慎重さを要する事項についてNATO加盟国間におけるドイツ政府の影響力を保持するためにも、引き続き米国との核兵器共有政策を順守していく」と語った。

またメルケル首相は、2月上旬に開催されたミュンヘン国際安全保障会議の席でも、「ドイツ政府は核抑止の原則を順守していく」と発言している。ドイツ観測筋によると、メルケル首相率いるCDU’sは、核政策に関してはドイツ軍当局の作成した見解を踏襲していると見られている。


一方、ドイツ国会においては、連立与党のSPDのみならず、1980年代の平和運動に設立起源を持つ緑の党、ドイツ左翼党、ドイツ自由民主党(FDP:ドイツ語表記の頭文字)など、右派・左派を問わず全ての野党がドイツ領土からの核兵器撤去を支持している。


事実、オバマ大統領のプラハ演説の直後、ギド・ヴェスターヴェレFDP党首は、ドイツ公共放送のインタビューに応えて「政府はドイツ領土から核兵器を撤去するようNATOとの交渉を開始すべきだ。核兵器はドイツに置かれるべきものではない。」と語り、政府の対応を強く要請した。


こうした各党指導者の声高な発言にもかかわらず、ドイツ領土からのNATO核兵器撤去問題が今年のドイツ国会で審議されることはなさそうだ。それはSPDCDUの連立政権協定において、核兵器撤去問題を国会採決に提議しないことが両党間で合意されているからである。


しかしその政権内拘束も期限切れを迎えようとしている現在、核軍縮を目指す活動家たちは、9月に予定されている総選挙に向けて、候補者選びの争点になることを期待している。


記者の質問に応えてIPPNWのステッフェン氏は、「シュタインマイヤー外相が急遽、公式に核軍縮支持の見解を打ち出したことは、既に次回の総選挙を視野に入れてのことです。同氏はSPDの推す次期首相候補ですから。」と語った。


ステッフェン氏はまた、「ここ数年間に実施された無数の世論調査の結果を見ても、ドイツ有権者の大多数といってもよい約75%が核兵器の国外撤去という主張を支持しています。」と語った。シュタインマイヤー外相は、明らかに、核軍縮を強く支持する有権者が多数を占める今日の政治状況にあやかろうとしている。


NATO
の核兵器がドイツ領土から将来的に撤去される可能性が出てくる一方、ドイツの平和運動に携わる者たちは、核軍縮問題が世界的に直面している困難な問題についても認識している。


「パキスタン、インド、北朝鮮、イスラエルといった核保有国は、国際連合のリーダーシップの下で地球規模の困難な交渉がされない限り、核兵器を手放すことはないだろう。」とステッフェン氏は語った。


「そのためには、新たな国際核軍縮条約が締結されなければならない。そして国際連合のみが核軍縮に向けた困難な交渉をリードし、核軍縮の過程をモニタリングする能力を有していると思われる。」とステッフェン氏は語った。


そのような条約には
国連安全保障理事会の5カ国、すなわち米国、ロシアの他にフランス、英国、中国の核兵器を対象に加える必要がある。「ドイツの左派野党は、欧州連合(EU)がEU全域を非核地帯と宣言することで、オバマ大統領による核軍縮の訴えを支持することを求めている。」と左翼党外交政策担当のヴォルフガング・ゲールケ氏は語った。


しかし、にわかに高まる核軍縮を求める世論にも関わらず、フランスや英国は依然として核兵器を放棄する気配はない。従って、ゲールケ氏の欧州非核地帯構想は、今のところ、希望的観測でしかない。(
原文へ


翻訳=IPS Japan


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